RFCの「オリジナル」はどこにあるか


はじめに

オリジナル文書が、どのような存在形態で「保存」「管理」されている文書の存在のありかた自体が、一つの「資料」である、という資料学の観点から興味深いことではある(*1)。

データを使ってなにかを言おうとする人にとって、その文書のオリジナルの場所を把握していることは、当然のことだ。電子データの場合は複製が紙よりも容易だから、暗号化の工夫が施されていないとすれば「所在」情報はとても大切になる。なにせ、紙質とか見た目等の「直感的」な物理的情報で、その真偽を計るわけにいかないのだから。

RFCの場合、暗号化なしの配布無制限データだから、「原文」の所在指示が大学のサーバのURIだったり、個人サイトのものだったり、どこかのデータサイトのものだったりと、あちこちに散らばっていることがおおい。

「私はこれこれの場所に存在するソースを参照しました」という説明ならが目くじら立てる必要はないだろう。

しかし、「この原文の場所は」、「このオリジナルの場所は」という所在情報自体を言挙するのであれば事情は違ってくるだろう。

オンライン上の「オリジナル」はIETFが入り口ではない

RFCについてはこの「オリジナル」がどこにあるのかについて誤解が生じやすいようで、IETFのwebサイトにのってるのがそのオリジナルだと思っている人々がいる。

あるいはオリジナルがどこかは意識してないにせよ、そのサイトにあるRFC文書を「原文」のポインタ(指し示す場所)として、記載するサイトは結構な数にのぼる。

たとえば、googleなどで、「ietf.org rfc 原文」をキーワードに検索をかけてみよう。

ところでIETF自身は、自サイトに乗せているRFC文書はオリジナル場所ではないと、サイトの冒頭で断っている。

http://www.ietf.org/rfc.html

IETFの事務局が管理してるRFCディレクトリとRFC Editorが管理しているディレクトリ、2つのディレクトリの間でタイムラグがあって、データ同調されないことがありえる。そのような疑いがあった場合は、RFC Editorのウエブページが、権威づけられたソースページである。

RFCの原文のありか

したがって、RFC「原文」は、まずRFC Editorのページが参照先である。

http://www.rfc-editor.org


しかしそれは「原文」文書預託庫(リポジトリ)の入り口(starting point)に過ぎない。

辿っていけば、その先のEMAIL・FTPサイトとして管理されている「原預託庫」first repositoriesに到達する。

FTPの場合は、2005年8月現在

NIS.NSF.NET, FTP.RFC-EDITOR.ORG,WUARCHIVE.WUSTL.EDU, SRC.DOC.IC.AC.UK, FTP.NCREN.NET, FTP.NIC.IT,FTP.IMAG.FR, FTP.IETF.RNP.BR WWW.NORMOS.ORG, FTP.GIGABELL.NET,or OASISSTUDIOS.COM.

などがある。以上はを踏まえれば、妥当で現実的なオリジナルのポインタは、RFC-Editorのwebサイトであり、そこから到達するISIのftpサーバということになろう(*2)。なお、上のリストのなかにさえ、IETF.ORGが存在しない(IETF.RNP.BRはある)ことにも注意をしておこう。

「誤解」が何故おこるのか

このような「誤解」が何故おこるのだろうか。

一般論としては...URI等電子文書参照規則の未発達

一つには、URIをはじめとした電子ファイルの「正」文書の「所在」情報についての運用規則の枠組みが未確立である、という事情があるだろう。

さらに、webという技術によって「リンク」による文書参照が容易になった一方で、ひろがったwebの裾野に登場してきた文書作成者が「文書参照」という慣習をもたない人々であり、古典的な「レファレンス」観が希薄である、という事情もあろう。

しかし、あえて「オリジナル」資源情報を指示する際に、なぜ人々は、特にIETFサイトを、RFC文書の第一所在ポインタとして指示するのだろうか。レファレンス、という意識を持つように見えながら、誤指示するのはなぜか。単なる一般論では説明がつかない、RFC文書の作成主体と文書形成過程の性質についての特殊な「誤認」が存在しているように思われる。


文書作成主体・過程についての誤解

このような誤認の背景には、インターネット仕様 -> RFC -> IETF という連想が存在しているのだろう。しかしこの連想は、RFCの文書的実像とずれているのだ。以下では、制度的視点と過程論的視点から、ずれと誤解についての説明を試みよう。


制度視点

まず、RFCの文書管理とその発行の最終的責任主体は、法的組織のISOC-IABによって担われることになっている。

ISOCの内部的には、IABがその編集・発行責任を最終的に持つことになっている

実質上の編集・発行作業は、IABによって指名された RFC Editorによるものである。

 ---IETFとIAB,IESG,ISOC,RFC Editorの関係----

   *IETFによる、IABメンバー候補指名
   **IETFによる、IESGメンバー候補指名
   $ISOCによる資金、物質援助
   [     ]ISOC内「組織」と位置づいているもの  

                        +----+
         +------*------>|ISOC|
         |+-----$-------+----+-$--+
         ||              |        $
         |$              |        V
         ||              |     +----------+
         ||              |     |RFC EDITOR|
         ||              |     +----------+
         ||              |        A
         ||              |        |指名
         |V              |指名    |
       +------+          V        |
       | IETF |--**---->[IAB]+----+------+
       +-+----+              |           |指名
         |meeting            |           V
         |                   |       +------+   
        WG                   |       | IANA |
                            |       +------+
                            |指名   
                            V
            10 areas------[IESG]

上の「制度」図の区別からみて、RFC Editorが、IETFとは別置されたシステムであることがわかる(*3)。

これを、形式制度的なものだとして、軽視してはならない。

一般的には、文書リポジトリがエディターのもとにあるという点は、文書編集権の独自性保障という「文化制度」にかかわる大切な問題である。RFC文書編集史に即した場合、その地位にとどまり続けたジョナサン・ポステルが、IETFの活動それ自身から距離をおいた the Editor としては、IETFの「外部的存在」であったことは、RFC2555「RFCの30年」の各人の証言からも十分みてとることができよう。

しかし、編集・発行権のIETFからの分離というRFCの文書特徴を理解するためには、上の慣行的 institutional な視点に加え、IETFのルーズな組織のありようから生まれる構造的な必然性を、押さえておく必要がある。

世界規模の標準化組織と見なされるようになったIETFは、現在もなお、それが任意の「活動」であり「プロセス」であるという自己規定を、手放してはいない。P.Hoffmanの言を借りれば、法・制度的には「IETFは存在しない」(*4)。

1990年代以降のthe Internetの世界商業化の中で、IETFは「実世間」の法的制度と接触せざる得なくなった時、IETFは法人化を選ばなかった。NPOとしてのISOCという外部に「法的傘」をつくり、その庇護の元に自らを「実装」することで、その任意な組織活動体としての自己防衛を果たした。この「慣習」と「法的制度」をうまく使い分ける活動戦略は、現在のIETF-ISOCのありかたを考える場合、興味深い論点だが、ここではその点には立ちいらない。

ここでは、その歴史的、制度的観点から言ってIETFが、RFCの文書管理主体になりえないことを確認しておけばいい。

文書成立過程から見て

加えて、実際的な視点から「そうなっている」ことを示そう。これは、標準化軌道に入らないinformational なRFCの発行過程を見れば了解できる(*5)。

----Informational RFCの成立過程------

      IETF-WG    /   IETF-WG以外
         |              |
         |      [RFC EDITOR]受領:Directory公開判断
         |              |
         |              V
      +----------------------+
      |   @I-D Directory     |
      +----------------------+
         |             |
         |       [RFC EDITOR]  
         |        |       |
         |        EDITOR判断
         |        |       |
         |        |     RFCないしは破棄
     [IEGS査読]   |
         |      [RFC EDITOR]--[IEGS]へ査読要請可能(慣行合意)
     |       |
         |   EDITOR判断
         |        |
         V        V
     RFCないしは破棄

IETF WG出自のインターネットドラフト(I-D)のRFC化の場合、標準化軌道用I-Dと同様のIESGの査読手続きを経る。標準化軌道に入るための「通過儀礼 initiation」をうけた段階で、即、RFC文書となる。しかし、これであれば、「軌道」後のステップを踏むかどうか、という違いに過ぎないようにみえる。しかしこれに対し、IETF WG外からやってきた「案」の扱いは、一見、特異である。

  • I-Dとして書かれたものは、まず Editor に直接送られる。
  • I-D用ディレクトリに入るかどうか自身にチェックが入り、その判断はRFC-Editorに委ねられている。
  • RFCになるかどうかも Editorの最終判断による。
  • 仮にその前にIESGの査読にかけられ(*6)、IESGの同意を得られなくても、RFCたりえる(*7)

これらは「軌道」向けのRFC(案)全体にも、informationalなIETF出自案にも見られない特徴である。制度的視点からみれた場合、ISOC内IABの元にあるRFC-Editorの独自コントロールによって informal なRFCは作成・発行されるだけだ(*8)。

IETFは、ここでは、直接には文書作成過程の関与者でもなければ、文書案作成者でもない(*9)。

しかしこれらは、例外的なものだと、みなすのは正しくない。IETF自身のありかたに起因するものだからだ(*10)、(*11)。



*1: author akira yoshii、初出20050504

*2: なお、初期のRFCは紙ベースのものがあり、実際のオリジナルはon-line版ではないし、また、on-lineベースのRFCも紛失されているものがあり、それらは、RFC editorのRFC Online Projectによって電子的に復元されてきている、という事情があるため、厳密には本文のようにいえない。この点は、別稿、「RFC Online Projectについて」、を参照されたい

*3: RFC EditorとISOCの制度関係については、これも興味深いことであるが、RFC Editorの活動「機能」 function について、ISOCは財政援助を行っているという点が強調され、RFC Editorの「組織」に対する援助ないしは指導をするものではない、と慣行的に位置付けられる。これは現行RFCの末尾におけるRFC Editor機能に対するISOCの財政援助に関するセンテンスや、RFC EditorのWebサイトにも見られることだ。

*4: Paul Hoffman,A Novice's Guide to the IETF,IMC,n.d.

*5:

The Internet Standards Process -- Revision 3:BCP9より作成

*6: これも慣行的に合意されているだけで、Editorの義務ではない

*7: その場合、IESGは、当該文書に、免責条項を記入することになる

*8: IABは、IETFの候補指名をうけたメンバーによって構成されるから、媒介的にIETFはRFCの策定過程にかかわっている、という風に言うことはできない。なぜなら、IETFは文書作成プロセスであって、組織体ではないからだ。

*9: RFC Editorのトップサイトで、The RFC (Request for Comments) series contains technical and organizational documents about the Internet, including the technical specifications and policy documents produced by the Internet Engineering Task Force (IETF). と、RFCがIETFによって作られた文書を「含む」containsとされ、http://www.rfc-editor.org/RFCoverview.html#streams,RFCoverviewの方では、RFCシリーズは「IETF,IAB,IRTFによって作られた文書群」と、詳しく書かれているのは、このような文脈で理解すべきである。The RFC series is the publication vehicle for technical specifications and policy documents produced by the (IETF (Internet Engineering Task Force) , the IAB (Internet Architecture Board), or the IRTF (Internet Research Task Force).

*10: したがってまた、RFCの策定過程でIETFとは独立したRFC文書を考える人々とIETFの間でトラブルが生じる場合がある。たとえば次のような事態http://www.leapforum.org/LEAP/Manifesto/article/DevelopmentModel/split/node7.html,事態1

*11: http://www.esro.org/complaint-2188/main.pdf,事態2

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